「トキ。起きて!」
目を覚ますと、ユイの顔がそこにあった。長い亜麻色の髪を後ろで一つに結び、灰色のワンピースを身につけている。深い青の瞳は、怒りを含んでいた。
気づけば、眠ってしまってたらしい。ベッドの横の窓からは、夕日が見えた。
「あー……もうガキ共は帰ったのか?」
「とっくの昔に帰ったわよ。先生も、もう帰ってくるって」
「まじか」
ユイはまだ寝ている俺にイライラしたのか、勢いよくドアを閉めて去って行った。仕方なく起きて、あとをついていく。
「ご飯の支度手伝って」
「へぃへぃ」
今日のご飯はパンとサラダと具沢山のスープ。さっき子供たちに配ったものの余りだ。
「今日も読んでたな、あの本」
「あの本? ああ、リユの伝説ね」
サラダを器に盛りながら、ユイが答えた。
「うけがいいのよ、あの本。しかけも豪華だしね」
「ふーん」
「トキは嫌いよね、あの本」
その言葉に、食器を準備しようとしていた手が止まる。ユイは「あの本というか、伝説が?」と続けた。
「なんで分かった?」
「わかるよ。こーんな怖い顔してるもん」
ユイは目の端を吊り上げ笑った。俺はその返事に、肩をすくめる。
「まぁ、そうだな」
「なんでよ? いい話なのに」
「化け物退治がか?」
「そうよ。皆で協力して、悪者を倒す。王道の展開だし、子供たちも喜んで聞いてるよ」
そう、いい話だ。でも。
「化け物は、本当に悪い奴だったのか?」
俺がぽつりとそう言うと、ユイは「なによそれ〜」と嫌そうな顔をした。
「人を食べてたのよ。悪いに決まってるじゃない。ほら早く用意用意!」
勢いよく肩を叩かれ、苦笑しつつ準備に戻る。わかってはいる。化け物は化け物でしかない。
でも何故か、納得いかないんだ。
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